新・徒然走稿第四回 | 徒然走稿

新・徒然走稿第四回

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『水面からの眺め』
カヌーに揺られて川を行く。年に一度のことになってしまったけれど。
そんなに厳しい瀬を攻めるわけではない。が、それなりに緊張する。
何故かというと、このカヌー、カヤックという奴は船底がまあるくて(断面が弧を描いているのです。いわゆるキールという三角断面ではない)、水の上での滑りはすこぶる良くても、黙っているとクルクル回ってしまって方向が定まらない。始終乗っていればドロップハンドルの自転車と同じで慣れの問題もあり、おとなしやかな場所を運行する分にはなんの支障もないのだろうが、年に一回となるとそうはいかない。

クルクルクルクルとトロ場で体を慣らして、クルクルがクッと来て、パドル(櫂)の一かきで”グッ”と進行したい方向に舳先を向ける感覚が戻ったところで流れに乗って川面を下る。
自転車は上りがあって下りを楽しむことが出来るけれど(峠越えの場合ね)、カヌーの上りというのはあまり楽しいモノではない。
まあ、技術がある人が楽しい瀬を下っては逆流を利用して遡上し、またそこを下って攻める、というゲレンデ的な楽しみがあっても、これは技術と体力が伴う場合の話で、年に一回、体を慣らしてからやっとこ流れに乗る人間には無縁の話である。

やっとこだろうと、ひょっとこだろうと、流れに乗れば川はきちんと迎えてくれる。
カヌーの操縦者は水の中に腰から下を入れた状態で流れてゆく(喫水線が腰骨よりも少し上のあたりかな)。つまり川面から自身の座高程度の高さの視点で移動してゆくのだ。
この視点はあまり経験できるモノではない。これは水面に立つ波の視点といってもいいのではないか、と思っている。

波の視点で見ていると、立ち上がってみればどうってことのない白波が、ゴオゴオと音を立てて覆い被さってくるように見える(まあ、技術不足で波が実際よりも大きく迫ってくるように感じるのかもしれないが)。大きな鯉とすれ違うと船が揺れる。ちょっと手を伸ばせば水の中に肘まで浸かってしまう。数十センチ下で水が澄んだり、濁ったりしながら一緒に流れてゆく。

香りと清さと、臭いと汚れが岸辺に住む人たちの気持ちをそのまま映すかのように変わってゆく。

すっかりと悟ったような気持ちで橋の裏を眺めていた次の瞬間、小さな隠れ岩に乗り上げたカヌーはクルリと横転して、僕は逆さまになって水中を眺めているのであった。

■栃木県・烏山町 五万図:烏山(リバーツーリングの時は二万五千図の方がよい)
この境橋を拠点にして上流の馬頭町のあたりから下ってきたり、御前山方面へ下ったりしている。
絵に描いてあるのは本文のカヤックとは違い、ファルトボート(折りたたみ式のカヌー)なのでキールがある。
直進性能が良いので乗りやすいけど、喫水が深いので浅瀬に弱いのと、あまり激しい瀬だと岩などにぶつけて船体布や木製のフレームをぶち折って悲しい思いをすることがある。
昨年も破損させてしまった。でも、メーカー(フジタカヌー)に送ったらしっかりと修理してくれた。結構前の製品なのに現役でサポートは万全なのだ。
こいうところ自転車メーカーも見習って欲しいなあ。

◆ゆずりは さとし イラストライター www.yuzuriha.com
今年の休暇は洞窟探検。福島のあぶくま洞、入水鍾乳洞とハシゴした。
入水鍾乳洞がイチ押し。蝋燭を手に暗がりを行く鍾乳洞として結構有名なところだ。
探訪コースランク最高のCコース(コースがA~Cまでにランク分けされている)がおすすめ。
Cコースは案内人無しでは進入することが出来ない(なぜか案内人は皆、便所サンダルを履いている)。ヘッドランプを装備して、身を切るような地下水の中(5分ほどで痺れて感覚がなくなるから大丈夫?)を時には膝まで浸かり、時には四つん這いになり、はたまた貴重な鍾乳石の間に体をよじいれて通り抜ける。途中で灯りを消してみると、もう鼻の先も見えない真の闇。福島方面にお越しの節は是非お試しあれ。

入水鍾乳洞 http://www1.plala.or.jp/CUE/cave_irimizu.html